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あの日に還りたい
星が全て教えます
運命愛と恋の行方
[4]
ふたりが歩きだすと、そばにいた数人の男子学生たちも、ぼくたちのあとに従うように動きだした。まり絵の取り巻き連中だということだった。視界の端に目を充血させた田村みさえの顔をとらえた。じっとぼくのことを睨んでいる。比喩ではなく視線は本当に突き刺さるのだということを、このときぼくははじめて知った。頬に痛みを感じた。
まり絵につれられて、取り巻き連中といっしょにおしゃれな酒場をなん軒かまわった。どこも似たようにウッディで似たようにムーディで、それが個性だと売り物にしている店だった。みんなはオレンジとかグリーンとかイエローとかの色をした酒を好んで飲んでいたように思う。すすめられてぼくも試しに飲んでみたが、甘ったるくて酒というよりジュースのような味がした。強い酒だと知っていたのなら、そんなにおかわりなどしなかったのだが。
みんなの会話にはとても入り込めそうになかった。それまで聞いたこともないような名前のロックグループのボーカルがだれかの友だちの女の子に入れあげているとか、あのバンドのベーシストは実はバイセクシャルだとか、そんな話を聞いたところでどう相づちを打てばいいのかわからなかった。ときおり、まり絵がぼくになにか質問をして、ぼくがそれにとんちんかんな受け答えをするたびに、みんなは手を叩いて笑いころげた。しらふのぼくだったら怒って席を蹴っていたかもしれない。でもそのときのぼくは、わけもわからないままみんなといっしょになって笑っていた。
最後の店を出ると日はもうとっぷりと暮れていた。まり絵が取り巻き連中全員に家に帰るように命じて、ぼくたちはもつれ合いながら盛り場の路地裏をさまよい歩いた。太ったトラ猫がゴミバケツのはずれかけた蓋の上に乗って、なかの残飯を引っぱり出そうと悪戦苦闘していた。その猫に小さくエールを送りながら角を曲がった。
すこし行った暗闇に、壁に背をもたせかけて男がひとりたたずんでいた。その前を行きすぎようとすると、男は路地の中央にふらりと出てぼくたちの行く手をはばんだ。
「いいねえ。きみたちこれからホテル? おれも混ぜてくんないかなあ」
ガムを噛みながら、アルコールで弛緩した顔をゆがませ、上目づかいでぼくたちを睨みつけた。まり絵がぼくの背中に隠れた。ぼくの肩のあたりをぎゅっと握りしめる。震えが伝わってきた。
「あ、あんたは!」
ぼくは小さな驚きの声をあげた。その顔に見覚えがあったのだ。キャンパスで新入部員を勧誘していた空手部員のひとりだった。あのときもたしかガムを噛んでいた。
「あん? 坊主。おれを知ってるてぇのか」
ぼくの顔をじっと見つめ、やがて吐き捨てるようにいった。
「見覚えねえなあ」
それはそうだ。この時間軸(ターン)では、ぼくは空手部員たちとはまったくかかわっていない。
「いいから、そこをどいてくれ」
ぼくが大声でそういったときだ。
「なめんじゃねえ!」と吠えるや、男が一歩踏み込んできたかと思うと、ぼくの頭のなかで強烈な光が白くはじけた。遅れて左の頬に熱を感じた。右パンチ……見えなかった……。
街灯が、夜空がゆっくりと転倒し、ぼくの上に覆いかぶさろうとしていた。
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