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あの日に還りたい

ナースOLメイド学生
ギャルズ★KISS♪


[3]

 正門をくぐると、桜の花びらがコットンセーターの肩に舞いおりてきて、ぼくの入学を歓迎してくれた。ショルダーバッグのなかには、ラルフ・ローレンのブレザーからタッセルローファーまで一式を収めてあった。カジュアルな服装で入学式に臨みたいというぼくの希望を、そんなことはとんでもないと母が一蹴してしまったので、アパートからはブレザー姿で出かけ、駅のトイレでカジュアルな服装に着替える作戦をとることにしたのだ。この大学の新入生はとんでもないほど大勢いるので、遅れてくる母とは、式が終わってからもたぶん顔を合わさずに済むだろう。

 あまりきょろきょろせずにゆったりとした足取りで入学式の会場に向かうと、空手部の勧誘員たちはぼくに声をかけようともしてこなかった。おそらく新入生には見えなかったからだと思う。

 式が終わって講堂の出口に向かっていると、人波に逆らってぼくのほうへ歩み寄ろうとするひとりの少女の姿を認めて凍りついた。垢抜けない紺色のワンピース、垢抜けない髪型、垢抜けない化粧。田村みさえだった。

 高校時代同じクラスになったことはなかったが、ぼくのどこが気に入ったのか、二年生の秋ごろからなん度かラブレターを靴箱に入れてくるようになった。最初の手紙を読んだときには、ぼくもどんなコなのか気になったので遠目から彼女の姿をうかがったりしたものの、二度目の手紙からはほとんど開封もせずに屑籠にほうり込むようになった。ようするに彼女はぼくのタイプではなかったというわけだ。風の便りで、彼女がぼくの志望校に照準を合わせて猛勉強を開始したと聞いたときには、ごくろうさんと思った。彼女のそれまでの成績では、はしごを掛けてその上で背伸びをしてもとうてい合格はおぼつかないだろうというのが、教師をふくめた大勢の見解だったのだから。

 しかし、きょうこの会場に彼女の姿があるということは、彼女の努力は実を結んだということだろう。だからといって、その成果を祝福してやる気にはとてもなれなかった。

 彼女の視線が、凍てついたぼくの視線と合わさると、彼女は口もとに喜色をにじませ、ぼくの名を呼んだ。
 ぼくは意識的に彼女から顔をそむけ、彼女のいない方向に向かって歩きだした。

 そして、そこに――

 春の妖精がいたのである。

 フローラルのブラウススーツはピンク基調で、カーディガンのアイスグリーンをその肩にふわりとはおっていた。柔らかな巻き毛を風にそよがせ、薔薇のつぼみがほころぶような微笑を、その妖精はこのぼくに浴びせかけてきたのだ。薔薇色の唇からぼくの名前が発せられたので、ぼくは小首をかしげてしまった。

「どうして、ぼくの名前を? ぼくはそんなに有名人だったのかな」
「ええ、あなた、全科目満点で合格したでしょう。いままでそんな人いなかったわ。なぜ、そんなことを知っているのか不思議? わたしの名前は浜中まり絵。法学部の学部長の娘なの」

 入試の成績が全科目満点だったというのは初耳だった。能力があることでいい気になって、ちょっと調子に乗りすぎたのかもしれない。もっとセーブしておいてもよかったのだ。でも、そのことでこんなに美しいコがぼくに興味を持ってくれたというのなら、それはそれで別に構わないじゃないか、とぼくは思った。

 自然な動作で、ぼくの腕にまり絵は自分の腕をからめてきた。どこかの山奥に眠るという神秘の泉のような瞳でぼくの目をのぞき込み、ささやくようにいった。

「これから、わたしにつきあってくださらない? きょうはお時間あるんでしょう」

 ぼくはうなずいた。これはもう、うなずくしかないではないか。



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