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あの日に還りたい
コダワリの音質!!
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[17]
正門をくぐると桜吹雪がぼくたちを歓迎してくれた。母は髪についた花びらを手のひらで軽く払い落としながら、ブレザー姿のぼくをまぶしそうに見つめ、しみじみとつぶやく。
「カメラを持ってくればよかったねえ」
「そんなのいつだって撮れるんだから」
ぼくが笑うと、ちょっとむきになったようだ。
「入学式の当日に撮るから価値があるんじゃないか」
「はいはい。ちょっと遅刻ぎみだから急いだほうがいいよ」
すこし歩くと、空手部員たちが新入部員の勧誘をやっていた。
「へえー、こんな都会でもずいぶんとむさ苦しいのがいるんだねえ」
母が感心したようにいう。断っておくが田舎育ちの母の地声はとても大きい。案の定、部員たちが目を剥いてこちらのほうを睨んでいた。
退屈な式も終わり、講堂の出口に向かうと、人波に逆らってぼくのほうへ歩み寄ろうとしているひとりの少女の姿が目についた。純朴そうな紺色のワンピース、純朴そうな髪型、つたないがなんとなくけなげさを感じさせる化粧。田村みさえだった。
みさえは、ぼくが彼女を見つけたことを知ると、面映ゆげに小さく手を振った。
「おめでとう。きみも合格したんだね」
そばに行ってぼくがそういうと、ええ、と耳まで真っ赤にしてうつむいてしまう。
ふたり並んで歩きながら講堂を出ると、そこに、巻き毛をなびかせてひとりの少女がぼくを待っていた。彼女はぼくの名を口にして、いたずらっぽく笑ってみせた。どうして知ってるのか不思議でしょう、とでもいいたげに。
「ぼくもきみのことを知ってるよ。きみの名前は浜中まり絵。法学部の学部長の娘なんでしょ?」
「あら、わたし、そんなに有名だったかしら」
「すくなくとも、ぼくにとってはね」
「ともかく、これから、わたしにつきあってくださらない? きょうはお時間たっぷりあるんでしょう」
「いや」ぼくは首を振った。そして、みさえの腕を取りながらいった。「ぼくの時間は彼女のために取ってあるんだ。たぶん……これからもずっと」
(了)
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