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あの日に還りたい

星が全て教えます
運命愛と恋の行方


[16]

 そのとき電話が鳴った。鳴るがままに放っておいたのだが、いっこうに鳴りやみそうにない。根負けして受話器を取ると、まり絵からだった。

「どうしてたの。寝てたの。あら風邪? ううん、ずいぶん鼻声だから。違うの。そう大丈夫なのね。それはよかった。あのね、あれからいろいろ考えたんだけど、わたしたちもう終わりにしない? うーん、なんていうのかなあ。あなたとの生活ってあんまり波乱がなさすぎてつまらないのよ。その点、いまのかれはまだ売れない役者なんだけれど、いろいろと楽しませてくれそうだし……」

 冗談じゃない。波乱がなさすぎるだって。自動車事故から家族を救い出したのは、いったいどこのだれなんだ。私が助けなければ、まり絵の顔にはいまも大きな傷が残っていたはずだ。次男だって生きてはいない。

 そういって反駁しようかと思ったがこらえた。私の能力のことなど、だれにいったところで理解できるはずはないのだから。

「それに、あなた子どもたちとの約束をよく破るでしょう。ほら、覚えてる? うえの子が六歳のとき、誕生日に自転車を買ってやるといっていたのに、当日になって買うのをやめたでしょう。うえの子、そのことをまだ根に持ってるわよ」

 覚えてるとも。誕生日に買ってやった自転車に乗って、家から遠く離れた神社の境内で遊んでいた長男は、そこの石段から転げ落ち、両脚を複雑骨折してしまった。だからこそ、買うのをやめたのだ。しかし、いくら自転車があるからといって、六歳の子どもがそんな遠くの神社まで足を伸ばしたことについては、すこし腑に落ちなかったのだが。

「遊園地につれて行くといって、出かけなかったことも」

 その日、その遊園地にある観覧車のゴンドラがはずれたという事故があったのを、まり絵は知っているだろうか。さいわい、だれも乗っていなかったので大きな記事にはならなかったのだが、私たちが遊園地行きを取りやめていなければ、そのゴンドラには間違いなく私たち一家が乗っていたのだ……。

「ともかくね。そんなわけで、子どもたちもあなたと別れることについては大賛成なの。それに、あなたには隠していたけれど、わたしたちずっと以前からつき合っていたのよ。あなた全然知らなかったでしょう。あなたの留守中、かれは子どもたちをいろんなところへつれて行ったりもしてくれたし。子どもたちはみんな、あなたよりかれのほうがいいっていってるわ」

 じゃあねえ、のひとことを最後に電話は切れてしまった。私は受話器をもどして、電話機をじっと見つめつづけた。

 なんてことだ。波乱のない人生はつまらない、だと。それでは、私のこの能力などなかったほうがよかったというのか。ほころびを一所懸命つくろいつづけてきた私の努力は無駄だったというのか。


 ……たしかに、まり絵のいうとおりなのかもしれない。人生は一度しかないからおもしろいのだろう。失敗してもなん度でも同じところをやり直せる私は、失敗の積み重ねの末に実を結ぶ成功の味を知らない。困苦を克服してまで懸命に生きる力を私は持たない。

 わかった。私はもうこの力を使うことをやめよう。普通の人間としてあたりまえの人生を送ることを誓おう。

 でも最後にもう一度だけ力を使わせて欲しい。いまのままではあまりにも惨めすぎて、あまりにもつらすぎて、私は生きていけそうもないのだ。

 しかし、ふたりの関係を修復するためには、どの時点までもどればいいのだろうか。まり絵は、あの男といつから男女の交際をはじめたのだろうか。二年ほど前からなのだろうか。それとも学生時代からずっと……?


 私は……わたしは……ぼくは……



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