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あの日に還りたい

星が全て教えます
運命愛と恋の行方


[15]

 翌朝私が会社に、気分がすぐれないので休みを取りたい旨電話を入れると、私が入社以来病欠したことがないのを自慢していることを知るそのOLは、鬼の霍乱だといって笑った。笑い返そうと思ったのだが笑えなかった。

 店がオープンする時間になるのを待って、私は駅前の大型書店に足を運んだ。「薄幸の美人恋愛小説家 田邑美砂フェア」と銘打って、彼女の著作が集められているコーナーがあった。二十数作の作品が並べられていたが、私はそのなかから適当に十冊ほど選んでレジに運んだ。本と私の顔を見くらべて、店員が一瞬とまどったような顔をした、と見えたのは私の気のせいだったのだろうか。

 家にもどると、窓のカーテンも閉め切ったまま、買ってきた本を読みふけった。どの作品も、歯の根のゆるむようなせりふが多く、私の嗜好に合っているとはとうていいえなかったのだが、みさえの精神の軌跡をたどるのだと自分にいい聞かせ、無理してページをめくっていった。

 なん冊か読破するうち、ふとある疑惑を抱いた。

 彼女の小説は、ヒロインたちの恋愛が成就することの喜びを歌いあげた、単純なラヴストーリーのように表面上装ってはいるのだが、そういった主旋律の裏に副旋律というべきものがひそんでいるのではないだろうか。そして、彼女が本当に書きたかったのは副旋律のほうではなかったのだろうか。

 というのは、どの作品にも主人公たちのほかに、ヒロインが幼いころから思慕の情を抱きつづけてきた男性が、まるでヒロインの影のように登場しているからだ。

 その影男こそ私なのだと思いあたったとき、私は腑抜けのようにふらふらと立ち上がり、外の空気を吸うために窓に近づいていった。窓を開けると、おもてはもう闇が支配していた。

 窓ガラスに映った私の顔は涙を流していた。
 それは、田村みさえの私への思慕の深さを知った感激の涙だったのか、彼女にむごい態度をとりつづけたことへの悔恨の涙だったのか。

 とうてい私にはわかり得ないことだった。



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