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あの日に還りたい

コダワリの音質!!
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[13]

 突然妻の不貞に気づいた。

 その日はちょうど妻の誕生日だった。私は待ち時間を利用して、妻へのプレゼントを物色するため、訪問先の会社の近くにあるデパートに足を向けた。そこで、男と腕を組んでショーウィンドウをのぞき込んでいる妻の姿を見かけたのである。ふたりがただの友人関係ではなく、男と女の間柄であることは一目瞭然だった。男は妻の腰に手をまわそうとさえしたのだ。男の顔には見覚えがなかった。いや、そのときはそう思ったのだが、あとから、学生時代に妻を取り巻いていた連中のひとりだということに気づいた。すぐにあとを追いかけ、妻を詰問すればよかったのかもしれない。しかし、そのときの私は腕時計で時刻を確認するふりをして、あわただしく訪問先に駆けもどったのだった。先方との約束の時間までには、まだ十分すぎるほど余裕があったというのに。

 結局私が妻に男のことを問いただしたのは、その夜、食事をしているときだった。子どもたちが点してくれたバースデーケーキのキャンドルを吹き消したのち、屈託なく私にプレゼントをねだる妻の笑顔に私は逆上してしまったのだ。プレゼントなどその男に買ってもらえばいい、といい放った私に妻はケーキを投げつけてきた。そのケーキを顔でキャッチした私は、シャンパンの栓を妻めがけて飛ばしてやった。あげくの果てはフライドチキンが天井から降りそそぎ、宅配ピザがフリスビーと変じて宙を舞った。食器が空を飛びまわらなかったのは、子どもの身を案じる理性がそれでもまだふたりに残っていたからだろう。どうやら私は最悪のタイミングで妻を糾弾してしまったらしい。

 すっかり荒廃してしまったダイニングルームで呆然と椅子に腰かけていると、荷物を詰め込んだスーツケースをさげた妻は、ふたりの子どもたちを部屋から追いだし、憤懣やるかたないといった表情で私に分厚い封筒を投げてよこした。

「あなたはわたしばかり責めるけれど、だとしたらあなたはなんなのよ」

 ドアが激しく音をたてて閉まり、玄関へ向かう妻と子どもたちの足音が響いた。



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