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あの日に還りたい
J-PopVCM・アニゲー
着うたSuperHits!
[1]
正門をくぐると、桜の花びらが真新しいブレザーの肩にふりかかってきた。新入生への歓迎の挨拶ということらしい。咲き誇った桜が、けむりのようにキャンパスのそこかしこを春色に染めあげている。
きょうは入学式。ここは、私立としては世間でもそこそこ名の通った大学である。ぼくの能力をもってすれば、もっと難易度の高い大学でも楽勝でねらえたのかもしれないのだが、入ってからあまりあたふたとはしないようにと、偏差値の高さもそれなりのこの大学に志望を絞ったのだ。
昨晩、ぼくのアパートに泊まった母は、恥ずかしくないように化粧しなくちゃということで、ひと電車ほど遅れてやって来ることになっていた。この歳になって母親と連れだって歩くことがなににも増して恥ずかしいことだと思っているぼくにとって、それはなによりありがたい提案だった。
入学式の会場である講堂へ向かおうとするぼくを、三人連れの学生たちが呼びとめた。ふたりはジャージー姿、残るひとりは空手着のようなものを着ている。
「ねえ、きみ。新入生でしょ。空手部に入って有意義なキャンパスライフを満喫しない。女の子にももてもてだよーん」
なにかの書類をはさんだクリップボードとボールペンを突きだしながら、ジャージーのひとりがにやけた笑いを見せる。
嘘だろ。
ぼくはそいつの顔を見ながら思った。パンチパーマに無精ひげ。どう見たって女性にもてそうなツラじゃない。それにだいいち歯ぐらいみがいたらどうなのだ。
そいつの臭い息にぼくがしばらく耐えていると、なにを思ったのか、やにわに空手着が演武をやりだした。三戦(さんちん)立ちから、奇妙な気合いとともにつぎつぎと空手の型を繰りだしていく。素人目にはそれなりに様になっているように見えるかもしれないが、あいにくぼくは小学校高学年のときに二年ほど空手道場に通っていたことがあった。そのぼくの目からすると、空手着の演武はどれもこれも重心移動のタイミングが微妙にずれている。ようするに型をなぞっているだけにすぎないのだ。漫画「空手バカ一代」の登場人物のひとりだったら、「それもしかして空手?」と揶揄したかもしれない。
最後に上段まわし蹴りをぼくのこめかみにぴたりと止め――たつもりになっ――て、空手着の演武は終了した。その姿勢のまま、臆したようにぼくの瞳をのぞき込む。足刀が迫ってきてもぼくがまばたきひとつしなかったことに、おそらく気づいたのだろう。
ぼくは――よせばいいのに――空手着の軸足を軽く刈った。空手着は転倒した、おそろしいほどあっけなく。
「このぉ。一年生のくせしてなめやがって!」
にやけた顔を一変させてジャージー姿が吠えた。浄瑠璃の人形にガブというのがあるだろう、柔和な顔が一瞬にして世にも恐ろしい形相になるという、ちょうどあんな感じだ。いや、そいつのもともとの顔はとても柔和といえたもんじゃなかったが。
もうひとりのジャージーは、ガムをくちゃくちゃしながらそれまでの無表情をくずさずに、ただ上目づかいで見ることでぼくを威圧しようとした。そいつのほうがぼくには恐ろしかった。
しまった。空手なんて最近はまったく練習をしていない。ジャージーたちの実力が先ほどの空手着程度だったとしても、それでも二対一なんてとても無理だ。ぼくはあとさきを省みないで行動してしまう自分の半端な性格をうらんだ。
ジャージーがレジメンタルタイごとぼくの胸ぐらをつかんだ。
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